6. 軽井沢移住 vol.6

軽井沢の住宅 移住・家づくり

– 軽井沢の住宅建築 デザインの決定 –

ご訪問いただきありがとうございます。

2019年に、長野県、軽井沢町に移住した“ぐじ”と申します。

vol.5の建築業者の決定に続き、最終的な建築プランについてお話しさせていただきます。

<最終プラン>

ということで、コンセプトに基づき、家の中心に強度壁を置きつつ、模型で外観の検証も行いながら、新しく自分でプランを考え直しました。

実際には、この時点でもいろいろな選択肢があり、また大いに悩みましたが、すべてご紹介すると細かすぎるので、最終的な案のみご説明いたします。

以下大きい部分で、「あきらめたもの」と「なんとかしたもの」です。

「あきらめた」

・吹き抜け(床面積の有効活用優先)

・2階の勾配天井(見た目は良いが、部分的でもコスト高)

・天窓(点検用にほしかったが雨漏り防止)

・作り付けの各部収納(既製品の家具やラックでコストダウン)

・部屋の間仕切り(壁の造作やドア数を減らしコストダウン。それほど来客もいないし)

「なんとかした」

・外壁レッドシダーの全面大和貼り

・無垢パイン床材の全面貼り

・室内壁の自然塗装仕上げ

・室内壁、天井の一部パイン貼り

・全面トリプルガラス(浴室を除く)

・浴室の全面開口(ここのみペアガラス)

・洋式バスタブ(カルデバイ最大サイズ:Saniform Plus 1800X800)

・蓄熱式暖房機2台(基礎部と1階に設置)

そして各フロアの最終プランは次のようになります。

[ 2階は、リビング、ダイニングキッチン、仕事スペース ]

軽井沢の別荘

[ 1階は、玄関、洗面、浴室、寝室

軽井沢の別荘

そして基礎部分は、機械室、物置スペースとなります。

少し長くなりますが、2階から順に決定した背景を説明します。

それと文章だけでは分かりにくいと思うので、必要な箇所に、出来上がった状態の写真を挿入しました。詳細のルームツアー的なご案内は、また別に考えていますが、まずは最終デザインの説明用にご覧ください。

– 軽井沢の住宅建築 窓とインテリアのこと – 

2階は家で日中一番時間を過ごすエリアです。コンセプトにある「ツリーハウス」を実現するためにLDKを最上階に設置しました。このあたり、どうしてそうなったのか、まずそのいきさつをお話したいと思います。

<外部との繋がりについて>

通常別荘建築では、リビングやダイニングに全面開口する大きなテラス窓を設け、外部に設置したウッドデッキなどと連続させることにより、室内と外部空間を空間的に繋げ、アウトドアリビングを楽しむといった設計にすることも多いと思います。

実は以前の横浜の家も景色が良かったので、そのような設計にしました。しかし実際は、最初のうち何度か外で食事したものの、だんだん年に数回あるかないかの使用頻度となってしまいました。理由は、あまり快適ではなかったということだと思います。

まず冬は寒くて外に出たくない。春先は花粉のシャワー、一番楽しめそうな夏も、蒸し暑い、蚊に刺される、虫が食事に入るなど、一瞬の爽快感のために、準備や片付けの面倒さも加わり、代償が大きかった気がします。そのため本当に快適と思えたのは、年に数日の限られた時期と時間のみでした。

別な見方をすれば、テラス窓が大きかったので、その近くに置いてあるダイニングテーブルで食事をすれば、景色も外とあまり変わらず、結局わざわざ外に出る必要はないということになってしまったわけです。

自然に囲まれた軽井沢は、横浜とはだいぶ環境が違うと思い、当初は大きなウッドデッキが欲しかったのですが、実は軽井沢もイメージで思い描くように、屋外が快適ではないのでは?、との考えに変わっていきました。

まず軽井沢においては寒い時期が極端に長すぎます。逆に気温が上がる夏は湿気が多く、なんと雨でなくても湿度100%の日があります。また1年を通じて霧も多く天気が悪い。よって、窓を開放してリビングやキッチンと屋外を繋ぐことは、私の場合、軽井沢でもほとんどやらないのでは?、と考えるに至りました。

よく建築雑誌やTV番組で、大きなテラス窓を全開にし、広いウッドデッキやテラスとリビングを繋ぐ開放的な住居が紹介されますが、屋外と一体化した開放的なイメージはとても魅力的に思えます。

たとえば、吉村順三の「軽井沢の山荘」を象徴する全開できる横長の大窓は、大変に美しいですし、日本建築にみられる「内外一体」に通じる情緒的なしかけとも思います。

しかしながら現代生活において常にその状態を保つのは、ある意味、覚悟を決めたストイックさが必要なのではないでしょうか。

私の場合は恥ずかしながら軟弱なので、これまでの経験や、軽井沢の厳しい冬、苔むす夏場の湿気を考えると、おそらく室内からの景色が良ければ、あまり頻繁に外には出ることはないだろうし、窓を全開にして外部との一体感を楽しむことは、実際は年に数回、しかも一瞬だけではないか、という現実論に至ったわけです。

<LDKの場所について>

また大型のウッドデッキを設置することは、我が家の場合、家全体の間取りと深く関係します。

我が家は傾斜地の高基礎住宅となるわけですから、家全体を傾斜地の低い側から見ると、見た目3階建てといった高さになります。その高い場所に大きなウッドデッキを設置するのは大変な構造となってしまいコストも含めて大変な構造になります。よって大きなウッドデッキを設置したい場合は、1階部分、見た目2階部分にデッキを設置し、連続させるLDKも1階にレイアウトする必要が出てきます。

別荘建築

一方あまり大きなウッドデッキを使うことはない、必要ない、と割り切れば、見た目3階となる2階部分にLDKのレイアウトが可能となります。

この2階LDKのメリットとしては、まずとにもかくにも景色が良いということがあります。森の自然樹木は、日光を受けるために幹が長く伸びることをお話ししましたが、そのため樹木の見どころである枝振りや、新緑、紅葉、落葉、積雪、などの変化を一番楽しめるのは、できるだけ高い場所からの眺めということになります。また別荘地とは言え、電柱や電線は気持ちの良い景色の邪魔となります。この問題を避け、眺めを優先するには、2階にLDKをレイアウトすることが適しています。

一方デメリットとしては、階段の上り下りが多くなります。今の体力であればとりあえず問題はありませんが、将来はどうなるか不安ではあります。終の住処として平屋が人気な理由もここにあるわけです。

しかしこの点について、私の場合、楽観的に考えることにしました。理由は90歳近くなった両親が、最後まで車椅子を使うような生活をしていなかったことや、むしろ階段を毎日使っていれば、体力トレーニングになるのではないか?というまことに勝手な希望的観測からです。

また仮に将来そのような状況になった場合、軽井沢という場所では、平屋に住んでいるにせよ、もはや1人で生活するのが困難な状況になっているのではないかと思われます。

ということで、結論として我が家は最上階にLDKをレイアウトしました。同時に大型のウッドデッキはあきらめました。実際に住んでみると不便なことも多少ありますが、それを差し引いても自然を眺めながらの豊かな暮らしに満足しています。

たまに来客が来て大勢で食事を楽しみたい時は、大きなウッドデッキではなく、小さな庭でバーベキューをして楽しんでいます。何かを落としたり、こぼしたりしても地面なのでお気楽です。

この2階部分についてさらに詳しくお話しします。

<小さなウッドデッキについて>

リビングやキッチンと連続する大型ウッドデッキはやめたわけですが、代わりに気が向けば気軽にお茶や軽食が楽しめるインナーバルコニー的な小さいウッドデッキを2階と1階に設置しました。

ウッドデッキが小さくて良いと思った背景には、コストメリットもありますが、室内からの視界を妨げないということがあります。

通常ウッドデッキやテラスは大きい方が使い勝手が良いですが、一方大きすぎると、室内から見た時に視界の邪魔になり、外の景色が見えにくくなるというデメリットがあります。そのため、吉村順三の「軽井沢の山荘」では、大窓の下に設置してあるデッキの張り出しを、人がやっと立てるような極めて奥行きのないものにしています。これにより室内から外をみた時に、下方向に視界が広がり、浮遊感が強調されるわけです。

そのため我が家のデッキも、2人分の椅子を置いて、後ろを人がぎりぎり通ることができる最低限のサイズにしました。少人数でお茶が飲めれば良いというスペースです。

別荘建築

またこのウッドデッキは、上から見ると正方形の一部を切り欠いた部分に設置してあり、デッキ全体に屋根が被るようにしてあります。木部の耐久性を上げるための配慮です。

それとついでながら、このウッドデッキは当初スチールとワイヤーのスッキリとしたモダンな手すりを予定していましたが、途中でコストダウンのため木製の手すりに変更しました。耐久性は劣ると思いますが、そこに小さなテーブルをDIYで設置できたので、結果よかったと思います。

軽井沢の住宅
室内からも下方向に視界が広がるインナーバルコニー的ウッドデッキ。デッキの奥行きがあまりないため、外に出ても不安感はありません

<窓の位置について>

「ツリーハウス」コンセプトとして、まず最上階にLDKを設置したわけですが、次に重要となるのは窓からの眺めや日当たりとなります。その窓の位置を決めるために、私は、Vol.5でお話したように、丸2日ほど現場に椅子を置き、太陽の動きをメモしながら周りの景色の特徴を観察しました。

そして、このように現場で調べた敷地の特徴をもとに、室内のレイアウトと照らし合わせながら、最終的な窓の位置を決定しました。

<窓のサイズについて>

窓位置を決めた後は、次に窓サイズの検討をしました。この家の室内からの最大の見せ場は、窓から見える景色と考えていたので、ここはコストをかけた部分でもあります。

まず窓のサイズですが、次のような条件から導きました。

1. 断熱効果を上げるため、トリプルガラス仕様が基本。

2. 外側の掃除を自分で出来ること。

3. 以上を守りながら、日当たりや景観に重要な場所の窓をできるだけ大きなサイズにする。

我が家のような北欧系住宅の場合、木製サッシが標準となりますが、窓の外側の掃除を自分でできるようにするには、表裏回転が可能なタイプにする必要があります。

これは横浜の家でも使用したのですが、どういうものかと言うと、窓を開ける時は下側からせり出し、最大に開ければグルっと180°回転、窓の外側が内側に向くというものです。これにより室内側から外側の掃除が簡単に行えます。

別荘建築

その回転ができるトリプルガラス付き木製サッシの最大サイズは、横1800mm×縦1500mmということでした。

それを東側の仕事机横に1枚、南向きのダイニングキッチン側に2枚、西側のカウンター前に1枚と合計4枚を設置しました。

夏の日中、風通しのため全開にしている状態

別荘建築では、大きなフィックス(固定式で開かない)の大窓を設置することも多いと思いますが、窓の外側を自分で掃除をするのが困難なものが多く、その場合は清掃業者さんにお願いすることになります。我が家は将来のメンテ費用を抑えるため、すべて自分で掃除ができるように考えました。

掃除の容易さ以外にこの回転式の窓にしてよかったと思うことは、夏場、下向きにガラス窓を開けると、虫が入りづらく、かつ風が気持ち良く通るところです。これは我が家のようにエアコンも網戸も設置しない家では助かります。

デッキ部の普通に横に開くガラスドアの方は開けると虫がよく入るので、下向きにしたガラス窓は虫除けに効果的だと思います。時々“パン”というやや大きな虫がガラスに当たる音が聞こえたりします。

網戸を使えば良い話ですが、このサイズの木製サッシに設置できる網戸がなかったことと、網戸越しの景色があまり好みではないため、我が家の場合は小さな窓も含めて、基本網戸なしとしました。

さすがに夜は虫が入るので、窓を大きく開けることはできませんが、軽井沢の暑い夏は短く、とりあえずシーリングファンと扇風機で過ごせています。

さて、小さなウッドデッキ側の窓ですが、こちらは外から掃除ができるのでフィックスタイプにしました。サイズはトリプルガラスの木製サッシでは最大クラスである横1700mm×縦2100mmとなります。そしてさらに、その左右にこれも窓のようなトリプルガラスの木製ドアをシンメトリーに配置しました。合計、窓枠を含んだ横幅は3300mmとなり、見た目の解放感は十分ではないかと思います。

ガラスドアは片方あれば出入りはできるのですが、見た目がまとまるのと、換気や将来のレイアウトの自由度などを配慮し、左右シンメトリーに配置しました。

このテラス窓は、出来上がるのが楽しみだったのですが、窓から見える外の景色も含めて、想像以上の美しい窓になり気に入っています。

軽井沢の住宅
大開口のリビング側テラス窓。外に出なくても私には十分な開放感

<窓の高さについて>

次は窓の高さの話です。

これは設置する場所の床から窓下までの高さがまず重要と考えました。コンセプトで言えば、「シークエンス」と関連する部分で、コンセプトパートで「追って説明させていただくのでご容赦を」とした話の続きとなります。

「シークエンス」のところで、「私は土地の造成や外構といった敷地のデザインから、家の外観への繋がり、そして家の室内から窓越しに見える景色、さらにはその窓に繋がる室内調度品のデザインまでを、連続した視点の流れとして捉えました」とお話ししましたが、少し具体的にご説明したいと思います。

まず土地の造成ですが、特徴のある地形を生かした造成と家のデザインを関連させて考えたことはこれまでお話しした通りです。

そして家を自然に溶け込ませ、かつコンパクトに見せるために、上から見ると正方形の総2階建てとし、屋根は地形に沿わせた片流れとしました。

また高基礎を作るために必要だった切土により出た残土や、アプローチを作るために削った土は盛土として活用し、小さな庭や、敷地の上方に駐車スペースなどを造成しました。

このあたりの造成アイデアや外構デザインについては、後でまた詳しくお話しします。

そして次に、現地でしつこく観察した方角に大きな窓を設定しました。つまりここまでで、土地の造成から家の外観、窓によって切り取るための景色や樹木などが決まったわけで、言ってみれば外部から内部へ連続させる下準備ができたということになります。

次はこの景色を切り取る窓をどういった高さに設定するかということになります。そして、これがもしかして、建築家ではなく自分でデザインした最大の特徴?と言えるかもしれません。

結論から言うと、私は窓の高さ、正確には窓の下端となりますが、これらをすべて室内のテーブルや机の高さに合わせました。

私は長身でないために、だいたい机やダイニングテーブルの高さは、710mm前後が適しています。よって新しく用意するダイニングテーブルやワーキングデスク、作り付けのカウンターテーブルなどの高さを、すべて710mmと設定し、窓下端の高さをそれに合わせて710mmで統一しました。実際は窓枠があるので、窓枠下端までの高さが710mmということになります。

これがどういうことかと言うと、椅子に座ると、横や前の窓がテーブルの面と連続している、つまり外の景色とテーブルの高さ、さらには、そのテーブルの上に置いてあるプロダクトや椅子などが、連続するわけです。

軽井沢の別荘
窓の下端にテーブルが繋がり、窓枠に腕も乗せられる。透明なガラスの花瓶は風景との相性ばっちり
軽井沢 インテリア
狙った樹木を景観として切り取った窓、窓の下端とカウンターの高さ、カウンターの高さとYチェアーの高さ、これらを連続させた

建築雑誌を見ていても、このような位置関係にある窓とテーブルはあまり見たことがありません。

これは建築家が窓の高さを設定する際に、施主の方がテーブルの高さを決めていないためなのでしょうか? 理由はよく分かりませんが、どうもテーブルやデスクの高さよりも、窓の下端を多少高めに設定することが多いように思います。

だいたい物が落ちないようにテーブルの上面から100mmくらいの壁があって、そこから窓が始まることが多く思います。そのギャップを私はどうも変な間に感じていました。

それよりもテーブルと窓の高さを合わせることにより、景色との連続感や、下方向の視界が開けることによる浮遊感を感じられる方が魅力的に思えました。

この窓の高さに関してもうひとつ大事なのは、上方向の解放感です。順を追って説明したいと思います。

まず先ほど述べたように、ワークデスク、ダイニングテーブル、カウンターテーブルは窓の下端と連続させ、そのテーブルの側に椅子を置きました。これにより景色の抜けや、狙った樹木を楽しみながら、視界は下方向に広がり、浮遊した感じを醸しだします。そしてこの窓の上端は、テーブルの上面より約1500mm上にあるわけですから、窓側の椅子に座って上を見上げると、近場にある25m以上ある樹木の頂上から空まで視界が開け、大きな解放感を得ることができます。つまり下から上まで視界が開け、あたかも外にいるような感覚となります。

別荘建築

我が家には吹き抜けがありません。それは小さい述べ床面積を最大限に活用するために、スペース効率を優先したためです。そのためよく別荘で見かける吹き抜けの外壁に設けた大きな縦長の窓のようなものは設置できません。

しかしよく考えてみると、こういう1階から2階まであるような大窓は、外部への開放感を感じたいから開けるものだと思います。つまり突き詰めると、その開放感をどの位置から感じるようにしたいかで、窓の大きさが変わるということに思えます。

例えば、広いリビングの中央から開放感がほしいとすると、窓までの距離があるため、視界確保には吹き抜けの上から下まであるような大きな開口が必要となります。

一方で人が窓に近づけば、同じ視界を得るための窓サイズは、より小さくてすみます。

軽井沢の風景
窓際の席から自然に見上げた視界。画面上方に屋根がわずかに見える。木々は下から見上げても美しい

私が従事していた自動車のデザインも視界が重要なので、人とガラスの位置関係は重要なデザイン要素でした。まぁ、簡単に言えば、窓に近づけばより外が見えるということなのですが・・。

ということで、我が家は吹き抜けの代わりに、大きな窓のすぐ側に座るレイアウトとして、上から下まで視界を広げることにより、外にいるような開放感を得られるよう工夫しました。

もちろん吹き抜けは外部との関係だけではなく、空間の広がりを感じさせる意味もありますので、私の場合は、室内空間の広がりの代わりに外部の広がりを採ったということになります。

んーこれは結局、吹き抜けが作れない人の苦し紛れの言い訳ということでもあるのですが・・(笑)。

<テラス窓について>

もうひとつ外部との繋がりで考える必要があったのは、小さなウッドデッキのところの大窓です。こちらはリビング側となりますが、テラス窓なので左右のガラスドアを合わせると、先に説明したように、窓枠も含んだ幅が3300mm、高さは床から2100mmとなります。

この寸法があれば、このまま外を眺めるだけでもでも十分な大きさなのですが、外部との繋がりをさらに楽しむため、この窓の側には、机ではなくベッド型のソファーを置くことを想定しました。

少し詳しくお話しします。

家の中央にある強度壁を挟んで、こちら側のスペースは、もともとリビングと想定していたので、テレビやソファーを置く予定でした。またそこに置くソファーは、前述したように離婚した際に家財分割で私が引き継いだ、組み合わせができる大型ソファーを置くことを決めていました。その中の1つにベッドのような形をしたソファーがあり、それをデイベッドとして使用することにして、窓側にぴったりと置くことを考えました。

これは寝転んで、やや下から見上げる樹木に囲まれた景色をイメージしたのですが、寝転んだ時に目の位置が低いため、床から始まる大型のテラス窓が必須となったわけです。当初からレイアウトに組み込んだため、そのデイベッドのための読書用照明も初めから壁内配線で計画することができました。

チャールズ・ムーアのシーランチ・コンドミニアムには、海に面した横長の窓に沿って、ソファーのようにくつろげるスペースがありますが、そこで横になると、海に浮かんでいる気持ちになるそうです。この窓際のデイベッドも実際に完成し使ってみると、まるで森の中に浮かんでいるような感覚となり気に入っています。

軽井沢
緑の季節だけではなく、冬場でも幻想的な気分が味わえる。右側が当初よりこのデイベッドのために設置した読書照明

<もうひとつの窓の役割>

かなりしつこいですが、窓についてもうひとつお話したいことがあります。

窓は、室内から外を見たり、陽の光を取り入れたり、換気を行ったりするものですが、私には普段意識されないもう1つの役割があるように思えます。それは道ゆく人へのソーシャルウインドウ、もしくはピクチャーウインドウとしての役割です。通常ピクチャーウインドウとは、室内から窓を使って外の風景を切り取り、景色を絵のように見せる効果のことを言いますが、この場合のピクチャーウインドウとは、外から見て、窓が額縁のようになり、室内が絵のように見えるという意味になります。

現代の日本の生活において、外から家の中が見えてしまうことを好む人はあまりいないと思いますが、私が経験したドイツやヨーロッパの人々の暮らしは違っていました。

ドイツで住んでいた場所は、緑豊かな小さい住宅地でしたが、住んでいた家の斜め前に老夫婦の住む家がありました。その家は歩道に面した所に大きめの窓があり、昼間はレースのカーテンなども閉めず、家の中が丸見えでした。そしてその窓のところで奥さんがいつも窓を全開にして外を眺めていて、道ゆく人に挨拶や軽い世間話などをしていました。

私はドイツ語ができなかったのですが、まだ小さかった息子と手を繋ぎその家の前を通ると、いつも笑顔で「ハロー!」と声をかけてくれたので、“ハローのおばちゃん”と呼んでいました。

日本では首都圏のマンションに暮らしていましたが、初めて外国に引っ越して暮らし始めた頃は、こういった習慣の違いにずいぶんと驚きました。他にも靴屋さんの前を通ると、いつもご主人と奥さんが息子に声をかけてくれたり、手を振ったりしてくれていました。そのたびに、「人と人との関係が日本とはずいぶん違うなぁ」と思いました。

かつての日本は同じだったかもしれませんが・・。

この“ハローのおばちゃん”の家は決して特殊ということではなく、窓をオープンにしている家は、散歩をするとたくさん見かけました。また他のヨーロッパの国々でも同様のことを感じました。こういった体験から、ヨーロッパの窓は人と人を繋ぐという日本にはない役割があるということに気がついたわけです。

それは家の窓が社会とのつながり、いわばソーシャルウインドウとして機能しているということだと思います。

ソーシャルウインドウというのは、もちろん家に人がいる場合は挨拶や立ち話をするコミュニケーションの場ということですが、さらに気がついたのは、人がいない場合でも、窓はコミュニケーションの役割をしているということです。

どういうことかと言うと、人がいなくてもその窓から家の中をあえて見せるようにしているお宅が多いということです。これにはインテリアに対するドイツ人の思い入れが関係しているように思います。

ドイツに暮らしてびっくりしたことのひとつに、インテリアデザイン意識の高さがあります。

引っ越ししてすぐにご近所に挨拶まわりをしたのですが、どのご家庭も招かれた家の中は、モダンなインテリア、カントリーライクなインテリアと、テイストこそ異なるものの、どこも雑誌に出てくるような花を飾った美しい部屋ばかりでした。こういったインテリアをドイツの窓はピクチャーウインドウとしてオープンにし、道ゆく人に楽しんでもらっているのです。オランダなどではこれがさらに進み、自慢のアンティーク家具を見せびらかすショーウインドウになっているそうです(笑)。

そしてこの窓は、暖かい季節にはゼラニウムなどの花を並べ、クリスマスシーズンは窓辺に伝統の飾りを置き、イルミネーションを灯すなど、まさしくピクチャーウインドウとなります。

このようにドイツの家は窓を使って、1人ひとりが道ゆく人を楽しませる工夫をしています。これが実際散歩をしていると、人々の温かな暮らしを感じる心地よい雰囲気となり、ドイツの人が散歩を好む理由がよくわかります。逆に言えば、散歩する人が多いので、ピクチャーウインドウにもさらに磨きがかかるわけです。

実は軽井沢でも同様のことを感じました。私が住む別荘地に建つ家々の窓には、道ゆく人を楽しませる飾りを置いている家が多く、おそらく海外経験のある方々なのだと思います。

それと苔庭がきれいな瀟洒な別荘などで、夕暮れに電球色の明かりが灯り、散歩していると家の中がよく見えることがあります。

暗くなってきたら明かりをつけ、すぐにサッとカーテンを引いてしまうということではないため、夕暮れ時、暮れなずむ景色を見ながら、ヒュッゲを楽しまれているのかもしれません。

あるいはご自身の家を景観として意識されているのかもしれません。

こういった家の横を歩くと、ゆったりとした生活の営みを感じ、気分がほっこりします。そして、このような景色を見るとドイツでの暮らしを思い出します。

軽井沢はもとより外国人により発展した別荘地ですので、海外に近い感覚がまだ残っているのかもしれません。

読んだ本によると、戦前、多くの外国人が住んでいた頃の軽井沢では、別荘にフェンスも玄関もなく、人々は地位の差に拘らず各家のバルコニーを自由に訪れ、会話を楽しんだとのことです。堀辰雄の小説にもこれを彷彿とさせる描写があります。こういった外部に対するオープンな姿勢は、軽井沢らしいことなのかもしれません。

このようなことを考えながら、私も家の窓を、風景を切り取るだけではなく、一部は外部に開かれた窓にしたいと考えました。具体的には真東のワーキングデスクを置いた窓です。この窓の側にはパソコン机が置いてあるため、私は日中そこで仕事をしていることが多く、“ハローのおばちゃん”のように散歩しているご近所さんや配達の人と、コミュニケーションが取れる窓になっています。ついでに言うとこの窓からは、リスやキツネ、シカ、イノシシ、Vol.1でお見せしたカモシカまで、一方的ですがコミュニケーションを取ることができます。

ショーウインドウ化の方は、まだ完璧ではありませんが、暗くなってきても家の中が見えるように、ロールカーテンをかなり遅い時間まで降ろさないようにしています。

それとショーウインドウとして、真反対の西側に同じサイズの窓を対象にレイアウトしました。これは、散歩している人が東側の窓を見ると、室内越しに西側の風景が抜けて見えるように考えたものです。つまりこの窓の意味は、この家ができることによって遮ってしまった景色を、少しでも感じてもらいたいという工夫となります。建築家、伊礼智さんの「守谷の家」にも同様の窓があったと思います。

道ゆく人のため、東側の窓より西側の窓の風景が抜けて見えるようにレイアウトした。時々クルマを停めて眺めている人もいる(笑)
Season’s Greetings

7. 軽井沢移住 Vol.7に続く。

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