– 軽井沢の住宅建築 依頼業者の決定-
ご訪問いただきありがとうございます。
2019年に、長野県、軽井沢町に移住した“ぐじ”と申します。
vol.4に続き、建築業者を決定した経緯のお話しです。
<決定した建築業者>
建築プランに関しては、コスト的にコンパクト案をベースにすることとしたわけですが、それでも造成費用を含めると予算がとても厳しく、以下のように抜本的な仕様の見直しを行いました(涙)。
1. 薪ストーブはオプションにしてすぐに導入しない
2. ロフトはあきらめる
3. 吹き抜けもあきらめ、効率的に床面積を活用する
4. バイクは玄関に収納しない。
5. 来客用の部屋もあきらめる
6. お客さんは外にテントを貼ってもらおう
7. 外構は自力でなんとかできるだろう
8. とにかく床面積を小さくする
9. 小屋でいいじゃないか
10. 小さくて何が悪い
と、だんだんむちゃくちゃになっていますが、とにかくこれらのコストダウン(あきらめ・・)を行い、なんとか造成分のコストを捻出すべく工夫しました。そして再度建築業社に見積もりを依頼し、最終検討をお願いしていた数社の中から、ついに成立しそうな業者を見つけ、依頼をすることにしました。
決定した建築業者は、長野県上田市にある北欧系の住宅を手がけるO社です。ここに決めた理由を大まかに言うと以下になります。
1. トータルコストにメリットがあった
O社は1人でやっている小規模の事務所のため、建築コストは多少抑えられており、投資対効果に一番メリットを感じました。また伐採や造成なども知り合いに安く頼めるということで、こちらも予算内にできそうでした。
特にコスト的に造成できるか不安だったクルマが入れるアプローチは、「むしろ資材搬入のため必要なので、やらせてほしい」という話でした。
このように規模は小さいですが、何かと小回りが効きそうで、ディテールまで希望通りの家ができるのではないかと当初期待しました。
実はこの1人でやっている事務所ということが、後にアダとなるわけですが・・。
2. 住宅の仕様が、天然素材を中心としていた
この建築業者が建てる家は、北欧の家を基準としており、床はパインの無垢材、内壁は自然塗料、外壁は総天然木の板張りなどが、予算の範囲で可能でした。
ただし外壁に地産地消のカラマツは使用せず、この業者の実績がある北米産のレッドシダーの大和貼りとしました。レッドシダーにした理由は、カラマツよりも耐候性や防虫性が高いという点と、表面をきれいに仕上げないラフ材が使えるためです。
ラフ材は北米の建築によく使われますが、表面をプレーナー(カンナ)で仕上げずに、ノコギリで製材しただけのものです。そのためノコ歯の痕が残っていたり、ざらざらとした状態ですが、このラフ仕上げの良い点は、表面積が多く雨水の揮発性に優れている点です。また年月が経ちシルバーグレイに変色した際にも、見た目の味わいが増すというところも魅力に感じました。
そしてコスト的なこともあり、私は思い切って、木板表面に何の塗装もせず、無処理(ノコギリで切ったまんま)とすることにしました。どうも北米ではそのような家が多いようです。
この北米風の考え方が、湿度の高い軽井沢で問題なく通用するかどうかは正直賭けですが、油分が多いレッドシダーのポテンシャルに期待をしました。最悪、板が腐ったとしても、人工素材のように生産中止になったりするものではないので、悪くなった部分だけを交換すればいいや、と楽観的に考えることにしました。
同類の素材であるレッドウッドを使った有名な建築としては、建築家 チャールズ・ムーアのシーランチ・コンドミニアムなどがあります。
面白いことに、このシーランチ・コンドミニアムの一角にある、ムーアの部屋のオリジナルプランも正方形です。
建築史家の藤森照信氏は、「ムーアが吉村順三の軽井沢の山荘に影響を受けたのではないか?」とわくわくする分析をしています。
<シーランチ・コンドミニアム>
引用元:YouTube “The Sea Ranch: Architecture, Environment, and Idealism
<ムーアの部屋・オリジナルプラン>
前掲 YouTube 2:51
引用元:YouTube “The Sea Ranch: Architecture, Environment, and Idealism
3. 住宅性能が高そうだった
このO社が手がける家は、窓はすべて北欧製の木製サッシでトリプルガラス仕様、壁は2×6の厚みを特徴としており、断熱性も高そうでした。またパイン無垢材の床となるため、床暖房は使用できませんが、家全体の断熱性能が高いため、蓄熱暖房機でも床暖房が入っているように暖かい、というふれこみでした。
4. 私のプランのまま、建築が可能だった
そして私にとって一番魅力的だったのは、「基本私のプランのまま、建築をする」ということでした。ただし強度確保のため、家の真ん中に基礎部から2階まで強度壁が必要ということを言われました。
そのため、すべての階でこの壁を前提とした間取りに修正が必要でしたが、逆に面白くなりそうだと感じたため、問題ではありませんでした。
早速この壁を入れた新しいプランの作成を行いましたが、そのプランは追って説明しますね。
このあたりは1人の事務所なので融通が効くと感じたところですが、後で考えると、うるさい顧客の要望に沿ったプランの作成や、詳細のやり取りを行う必要がないため、むしろ手間が省け、先方にとっても好都合だったのかもしれません。
– 軽井沢の住宅作り 家のコンセプト –
<家づくりの具体的コンセプト>
コンパクト案をベースとした最終的な建築のコンセプトを、以下のように設定しました。
このコンセプトの設定手法は、プロダクトデザインの開発プロセスに習ったものですが、私には考えを整理し易い方法です。大学でも授業として同様な手法をレクチャーしています。
「建築テーマ」:軽井沢らしい家
「デザインキーワード」:小屋 自然 シークエンス ツリーハウス インダストリアル
なんのこっちゃ、よく分からないですよね。少し説明させてください。
建築テーマの、「軽井沢らしい家」は、これまで述べてきた「私が思う軽井沢らしさ」を具現化するという考え方で、こう説明するのははばかれるのですが、ウイリアム・メリル・ヴォーリズによる自身のための「九尺二間の山荘」、吉村順三の軽井沢の山荘の延長の建築という捉え方です。
そのため、基本的に質素であり、軽井沢の自然に溶け込むような建築を外構も含め理想としました。
そしてそれを具体化するための「キーワード」は次のような意味となります。
「小屋・Cabin」
まず「小屋」ですが、「山荘」というのもおこがましいので、「小屋」としました。小屋の意味は、できるだけコンパクトにしたいということと、温かみのある手作り感を大事にしたい、という思いを込めています。
ただしこの家は別荘ではなく、すべての現代生活がここにあるわけですから、面積や容積をどの程度小さくできるかは分かりません。しかし、「できるだけ小さく見せる」ということは守りたいと思いました。気持ちは鴨長明の方丈庵であり、立原道造のヒアシンスハウスであり、コルビジェのカバノンです。
またこの小屋のインスピレーションには、「Cabin Porn」という海外サイトが参考になりました。
引用元:下記4枚も含めてすべて Cabin Porn𝐂𝐚𝐛𝐢𝐧 𝐏𝐨𝐫𝐧Inspiration for your quiet place somewhere. Get your copy of our new book: books.cabinporn.com
この中で、私が印象に残っているイメージをいくつかご紹介すると下のような感じです。どれも小さい家、まさしく「小屋・Cabin」ですが、住むことの楽しさに満ちているように思います。
それと、自然、木材、石、その組み合わせとバランスにより、気持ちが安らぐ感覚と、ある意味ラグジュアリーな雰囲気、威厳をも醸し出しているように思います。
「自然・Natural」
「軽井沢」は人によって捉え方がずいぶんと異なります。そしてそれは住む人の家の雰囲気や外構に恐ろしいほど正直に現れます。もちろん捉え方は自由なのですが、私は軽井沢の歴史から入って、軽井沢を尊敬するような家にしたいと思いました。
そのため、この「自然」には、いろいろな意味を込めています。豪華さを主張する建築ではなく、自然に溶け込む外観。経年変化をしながらより自然に近づく素材使い、軽井沢の共通景観を壊さない外構。加えて軽井沢の生態系を壊さない植栽などを目指しました。
「シークエンス・Sequence」
次のシークエンスは、建築家ではなく自分がデザインする家だからこそできることかもしれません。
どういうことかと言うと、建築におけるシークエンスとは、”移動することで変化していく景色”という意味だそうですが、私は土地の造成や外構計画といった敷地のデザインから、家の外観への繋がり、そして外観における窓の位置と大きさ、その窓を室内側から見た時の景観との繋がり、さらに、その窓と景観に繋がる室内調度品のデザイン、これらを連続した視点の流れとして捉えました。つまり土地の造成から室内の家具まで連続しているデザインというわけです。
はーーー?、何を言っているかわかりませんよね。
追って具体的に説明しますので、ひとまずご容赦を。
「ツリーハウス・ Treehouse」
これは分かりやすいと思います。そのままの意味です。
この家はツリーハウスではありませんが、木々に囲まれているため、室内からの眺めをツリーハウスのようにしたいということです。
山の木々は日光を確保するため、幹が長く伸びます。そのため、枝ぶりや葉の変化を楽しめるのは高い場所からとなります。この理由から、多くの時間を過ごすことになるリビングを、最上階に持っていくことにしました。
「インダストリアル・Industrial」
次はまた訳のわからないインダストリアルです。「自然」といいながら工業を意味するインダストリアルとはどういうことなのか?
これは現代の建築において、はっきりさせておくべきことだと思います。というのは、現代において、どこまで「自然な建築が合理的か?」ということです。
例えばログハウスなどは、できるだけ釘や金具を用いず、木材の組み合わせによって組み上げられますが、屋根に関しては、人工スレートや金属鋼板などを金具や釘によって留めることも多いと思います。あまり詳しくないので、間違っていたらすいません。
つまり大昔の神社仏閣や藁葺き屋根の家屋のように、釘や金具、金属をまったく使わない家は、現代では考えにくいわけです。
これは別な見方をすると、工業製品と自然素材の関係をどのあたりで折り合いをつけるかということになります。
この点について、私はあまりこだわっておらず、木材などの自然素材をできるだけ使用できるのであれば、強度が必要なところに金属を使うのは合理的だと考えています。
例えば2×4材を留める金具が見えても、現代の手作り小屋的であり、美観が損なわれるとは思いません。むしろ2×4の金具で有名なアメリカのシンプソン社の留め具には機能美すら感じます。コンクリートという素材も同様です。
ただし樹脂素材は人工的すぎ、あまり好みではないので、断熱材など、できるだけ見えないところに使用したいと思いました。
– 軽井沢の住宅建築 効果的だった手法 –
ここから今回の家のデザインで有効だった手法をご紹介したいと思います。いずれも「ヒマ?」と言われてしまいそうですが、これをやらなかったら、もっと多くのところで後悔したのではないかと思います。
<窓位置の決め方>
「これは執念か?(笑)」
まず窓についです。
森の中に建つ家にとって、窓からの眺めがいかに重要かを、Vol4.で建築業者の建てた家を見学に行った体験談としてご紹介しました(衝撃)。
その大事な窓の位置を決めるために、私は丸2日ほど現場に椅子を置き、太陽の動きをメモしながら敷地の観察をしました。
気にしたのは、寒い軽井沢で貴重な冬場の日当たりを確保するにはどの位置に窓があると効果的か? またどの方向の景色の抜けが良いか? 逆に見たくないものがあるか?。 はたまた、どの樹木を狙うと美しい景色を切り取れるか? などです。
下はその際に作成したメモの一部ですが、家を建てる予定の場所から、周辺の状況を全方向しつこいくらい観察しました。
吉村順三は窓の位置決めをする際に、脚立の上に座り検討をしたとのことですが、私の場合は、LDKの窓がかなり高い位置に設置されそうだったので、敷地の高い側から写真を撮り、それを拡大し確認をしたりしました。
またラフに整地されてからは、ドローンを飛ばし、想定される窓位置から見える風景の撮影などを行い検証をしました。
そして最終的に窓位置を決定する際には、予定していた家の方角を30度ほど、西方向に回転させました。こうすることにより、狙った樹木や、抜けの良い風景が窓の中で収まりが良かったためです。
特に土地を決めた際に気に入った2本の広葉樹の大樹は、ダイニングの窓の正面に入るように何度も計算をしました。
言ってみれば、室内からのシンボルツリーといった扱いですが、しつこくシュミレーションしたおかげで、ほぼ理想の位置に取り込むことができました。
加えて家を回転させてよかった点は、完全に北を向いた面がなくなったということです。つまり西側に回転させることにより、北向きだった面が、北西向きとなり、西日があたるようになりました。これは湿気の多い軽井沢では、外壁を乾燥させるのに有効なのではないかと思います。
<家の模型を作り検討する>
「建築スケッチモデル?」
建築家に設計を依頼すると、CGによるパースや、建築模型を作ってくれたりしますが、我が家の場合は、1人でやっている事務所なので、そんなサービスはありません。
そのため、内部レイアウトを考えながら、自分で1/100スケールの模型を作り、外観も同時に検討をしました。現代では3Dデータでも十分検討できますが、私はどうもピンときません。原始的ですが、フィジカルモデル(実際に手で触れる模型)が好きです。
この外観も同時に検討するというのは、室内レイアウトから家の寸法を変更するような場合、「外観としての見え方はどうか?」を同時に検討したということです。
たとえば、当初コストダウンのため、床面積をぎりぎりまで絞ったせいで、上から見ると、我が家は完全な正方形にはなっていませんでした。また屋根に切り欠きがあったりしました。下は最初の頃に描いたイメージスケッチです。
それを模型で再現してみると、どうにも中途半端に思えました。そのため模型を完全な正方形に改造し、屋根も切り欠きを無くしてみると、しっくりと安定した形になりました。多少値段は上がっても、後から変更はできないため、ここはコストをかけてでも完全な正方形にしたいと判断しました。
このように模型を使って、途中でいろいろな検討をしながら何度も修正を重ねましたが、そういう意味では完成形を確認する普通の建築模型とはだいぶ違うかもしれません。プロダクトデザインで言うところのスケッチモデルだったと思います。
注)スケッチモデルとは、立体の基本形を決めるために(例えば握り易いグリップなど)、スケッチを描くように、ラフにカタチを削って何度も検討するためのモデル(模型)のことを言います。
特にこの模型の検討を行ったことで、最終案に生きたところは、2階から基礎部まで通した、外壁から凹んだ部分の造作です。
この凹み部分に、2階と1階は小さいウッドデッキを設け、基礎部は、作業台を置く工作スペースにしようと考えました。
またこの凹みは、壁から単に凹んでいるのではなく、壁からわずかですが一旦立ち上がる壁を設けました。デッキスペースに奥行きを持たせるための工夫です。これがアクセントとなり、建築がただの箱にならずに多少面白いカタチになったと思います。
それとこの凹みが効果的だった点は、どうしても2階リビングの窓と1階浴室の窓は、機能も異なり揃えることができなかったのですが、窓が一段奥まった凹み部分にあるため、あまり気にならないですみました。
また模型を検討した際に、この凹んだ部分を基礎部から最上階まで間接光で照らし、家をアンドンのように見せるというのも面白いのではないか、ということを思いつき、照明計画に入れました。
ついでにこのウッドデッキ部について説明すると、1階と2階で横壁の扱いを変えています。1階は浴室にあたるため壁で囲み、2階は視界が抜けるようデッキ左右に壁を設けず手すり仕様としました。このあたりは何回も模型を作り直して考えたところです。
デザイン的にはデッキの横壁を屋根の下から地上までドーンと通した方が、すっきりとカッコ良くなるため(下の画像左側)、ここはずいぶん悩みました。しかし2階は視界の抜けがやはりほしいので、最終的に2階は視線をふさぐ壁を通さず、室内からの眺めを優先して手すり(下の画像右側)としました。
これが外部からどのように見えるかをシュミレーションするのに、この小さい模型は役立ちました。そして模型で大きな違和感がないことや、逆に手すりがアクセントとなり、要塞のようにストイック過ぎず、軽やかに見えることなどを確認し、最終的にこのデザインとしました。
実際家が出来上がってみると、外観は普段ほとんど気にして見ないですが、室内からの景色はいつも見ることになるため、これで正解だったと思います。
他にもこの模型は、この家にとって重要な窓の位置や大きさの検討にも大いに役立ちました。これは内部のレイアウトから窓の位置や大きさを決める際に、写真のように模型に窓を模した紙を貼り、外部から見てバランスが悪くないかを確認をしたものです。この窓サイズや位置を検討することは、外壁の色や仕上げ同様に、外観の印象において大事な要素だと思いました。
面白かったのは、写真中央に写っている玄関ポーチの雨よけの庇(ひさし)で、業者にこの模型の写真を見せたところ、模型そっくりな庇(ひさし)がいつのまにか出来ていました(笑)。
この後は、家全体のプランと詳細のデザイン説明に入ります。
6. 軽井沢移住 Vol.6に続く。